私的少女漫画史大風呂敷1971年

この年、私は立ち読みで雪の子を読みました。その作品が非常に印象的だったにもかかわらず、他の作品が小粒だったため雑誌(別コミ)を買わず、そのまま萩尾望都の名前も忘れてしまいました。当時は何せおこづかいに限りがあったので、立ち読みした雑誌に3つ以上の面白い作品(もしくはインパクトのある作品)がなければ、雑誌は買わなかったのです。
次の月 ジェニファの恋のお相手は(なかよし)を読んで 割と面白いと思いながら、この作品と前月に読んだ作品の作者が同一人物だとは思っていませんでした。モードリン(週刊少女コミック(週コミ))、小夜の縫うゆかた(別コミ、以下同じ)、精霊狩り」「秋の旅で他とは明かに違うこの作家に注目するようになり、11月のギムナジウムで、この人の作品は他の人の作品と非常に異質で、他では描かれないものが描かれていると感じました。

11月のギムナジウムは寄宿学校に転校してきた 少年と、その少年にそっくりな学園のアイドルである美少年の一瞬のふれあいの物語なのですが、まずそっくりだという設定なのに、この二人は今までの少女漫画を見慣れている目から見れば全然似ていませんでした。 
というのは当時、かなり多くの作家がキャラクターの描き分けがあまり出来ず、主要人物の3人ぐらいならともかくそれ以上になると髪の色や形が違ったり瞳のデザインがほんのちょっと違うことでしか描きわけていませんでした。ところが「11月…」では二人の顔形はそっくりであるけど髪の色と形と瞳の描かれ方が違ったため、それまでの少女漫画を見慣れている目では、全然別の(似ていない)キャタクターと認識してしまうのです。 

また学校のアイドルといえば、他の漫画では女の子の憧れの的の華やかなキャラクターとして描かれるのが常であったのに、この作品では人当たりがいい美少年でありながら、割と静かな内省的な面をもつ少年として描かれていました(男子校だったせいもありますが)。 
そして脇役キャラクター達がじつに多彩に描かれていたこと、他の作家に比べると非常に乾いた感するのにもかかわらず「生きている」描線であったこと、様々なアングルから描かれるモブシーンや 映画的な場面構成など。多分今現在この作品をそっくりそのまま模写しても十分に漫画の勉強になるでしょう(ただしストーリーがつめこみすぎであるため、コマが小さすぎるのがナンですが)。

この時も別コミは買っていなくて、その本を見せてもらった友人から切り抜きをもらい(もうこればっか)、次の号の白い鳥になった少女、そのまた次のあそび玉、そして3月うさぎが集団でですっかりファンになってしまいました。そういえば「3月うさぎ…」ではどこからか回ってきた週コミを読んであまりの面白さに、全然知らないその本の元の持ち主と交渉して半額くらいの金額で雑誌を買い、以降その子とは何年間にも渡って少女漫画について話し合う友達になったのでした。だいたいこの時になってやっと、「雪の子」「ジェニファ…」「精霊狩り」の作者が同一人物だったことに気がついたのでした。かなり間抜けかもしれない。

アイドルといえば、この年(と言っても実際は前年でしたが)の始めには花のアイドル伝(忠津陽子)がありました。ただのさえない科学オタクの青年が薬を飲むことによって絶世の美青年 アイドル・ビューティに変貌し、何をやっても完璧な学園のスーパースターになるのに、その正体は謎。他に学生達はもちろん主人公ですらニセの「アイドル」像に振り回されていく中、たった一人アイドルには振り向かない女の子がいた……。ラスト、アイドルを自分の手で消し去って得たものへの主人公のモノローグが印象的でした。この作品はただの軽いコメディではありませんでした。

この年の秋頃から山岸涼子のバレエ漫画アラベスクが始まりました。この作品が今まで描かれたバレエ漫画と全然違っていたのは、今までの漫画がバレエは小物とかただ単に舞台設定でしかなかったのに、「アラベスク」ではきちんとプロのバレリーナを目指す少女の成長が描かれていたことでした。今まではバレエシューズ(トウシューズ)といえば主人公の足元を華やかに飾るものであったり(ひものクロスが大げさなくらいわざとらしく描かれていた)、主人公を妬むライバルによって画鋲を入れられたりするものであったのが、「アラベスク」では肝心なひものクロスが描かれず、さらに主人公がジャブジャブ洗ったりするものでした。 

また踊りでは、一つ一つのポーズ名(技の名前)と分解写真のようなポーズの流れが描かれたり、男性舞踏手やバレエ学校のシステムについて等きちんきちんと描かれ、リアルな独自の世界が描かれていました。

今思い返してみると、1971年から1973年にかけては別コミ、りぼん、別マ、週マなどで百花繚乱状態だったと思うのは私の気のせいでしょうか。

1971年の作品

注記事項

★ 面白度 or 印象度 or 衝撃度5
● 面白度 or 印象度 or 衝撃度3
○ 面白度 or 印象度 or 衝撃度1
□ 当時人気だった作品、当時の話題作、他
◆ その他の出来事
D デビュー作

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作品名 作者名・掲載誌・掲載年
●ペテルブルグの雪 (高橋京子, 別マ, 1971.不明)
★なにクソッ!天才 (有吉京子, 週マ, 1971.No.4/5-No.10)
★雪の子 (萩尾望都, 別コミ, 1971.03)
★友紀の海を返して! (井出ちかえ, りぼコミ, 1971.01-1971.03)
★日本列島1万年 (美内すずえ, 別マ, 1971.01-02)
★しあわせという名の女 (もりたじゅん, りぼコミ, 1971.01)
★花のアイドル伝 (忠津陽子, 別マ, 1971.01)
★飛んでゆく雲 (西谷祥子, 月セ, 1971.02-1971.03)
★白い部屋の二人 (山岸涼子, りぼコミ, 1971.02)
●塔のある家 (萩尾望都, 週コミ, 1971.No.12)
★空がすき!第1部 (竹宮恵子, 週コミ, 1971.No.12-No.21)
●かたっぽのふるぐつ (萩尾望都, なかよし増刊, 1971.04)
●花嫁をひろった男 (萩尾望都, 週コミ, 1971.春の増刊)
★ジェニファの恋のお相手は (萩尾望都, なかよし, 1971.04)
★ビクトリアの遺書 (美内すずえ, 別マ, 1971.04)
★こんにちわスザンヌ (西谷祥子, 週マ, 1971.No.18-No.47)
●ポム・ポエムの町 (里見潤, 別フレ, 1971.04)
★アマリリス (忠津陽子, 別マ, 1971.04)
★黒とかげ (高階良子, なかよし, 1971.04-1971.08)
●月の落葉 (山岸涼子, りぼん増刊, 1971.04)
★モンシェリCoCo (大和和紀, 週フレ, 1971.No.17-1971.No.50)
★かわいそうなママ (萩尾望都, 別コミ, 1971.05)
★美しき狩人 (井出ちかえ, りぼん, 1971.05-1971.07)
★黄色い海賊船 (美内すずえ, 別マ, 1971.05)
●恋の3, 000マイル (志賀公江, 週マ, 1971.No.22)
★天までのぼれ (弓月光, りぼん別付, 1971.05)
★ひばり鳴く朝 (美内すずえ, 別マ, 1971.06)
★6月の丘 (山田ミネコ, 別マ, 1971.06)
●子ネコと少女 (有吉京子, 隔マ増刊, 1971.夏)
★モードリン (萩尾望都, 週コミ, 1971.No.29)
★小夜の縫うゆかた (萩尾望都, 別コミ, 1971.夏増刊)
★精霊狩り (萩尾望都, 別コミ, 1971.07)
★わなにおちた花嫁 (杉本啓子, 別フレ, 1971.07)
★魔法使いの夏 (山田ミネコ, デラマ, 1971.夏)
★生きててよかった (池田理代子, 週マ, 1971.No.36)
●初恋・少女の胸に (一条ゆかり, りぼん, 1971.09)
★桜京 (池田理代子, 週マ, 1971.No.39-No.49)
★13月の悲劇 (美内すずえ, 別マ, 1971.09-1971.10)
★ナイルの鷹 (のがみけい, りぼん, 1971.09-1971.12)
●パパ!(パパ) (和田慎二, 別マ, 1971.09.D)
★ネジの叫び (山岸涼子, りぼん, 1971.09)
●10月の少女たち (萩尾望都, COM, 1971.10)
★秋の旅 (萩尾望都, 別コミ, 1971.10)
★さらばジャニス (一条ゆかり, りぼん, 1971.10)
★カワリ大いに笑う (桑田次郎, 週マガ, 1971.No.39-1972.No.9)
★あしたの友だち (大島弓子, 別コミ, 1971.10)
★アラベスク第1部 (山岸涼子, りぼん, 1971.10-1973.04)
●白き森白き少年の笛 (萩尾望都, 週コミ, 1971.No.45)
★11月のギムナジウム (萩尾望都, 別コミ, 1971.11)
●血とバラの悪魔 (高階良子, なかよし, 1971.11-1972.02)
●ゲッシングゲーム(ミッシェル・デュトワ) (山岸涼子, 別セ, 1971.11)
●サッチンあなたの青春 (大和和紀, 週フレ, 1971.12/17)
★白い鳥になった少女 (萩尾望都, 別コミ, 1971.12)
★エルドラドの伝説 (井出ちかえ, りぼん, 1971.12)
★おしゃれなシャンゼリゼ (志賀公江, 週マ, 1971.No.49-1972.No.10)
★Oh!ショックなあいつ (志摩ようこ, 週コミ, 1971.No.50-1972.No.2)
★D夫人にささげる花はない (菅沼美子, 週フレ, 1971.No.51-No.52)
○雨とコスモス (山岸涼子/りぼん)
○ハロー!エブリボディ (山岸涼子/りぼん)
○すえっこ台風 (阿部律子/週フレ)
○赤いオオカミ (田中雅子/別マ)
○ふたりは恋人 (みなもと太郎/週フレ)
○ひとりっ子の冬 (山田ミネコ/別マ)
○よしこで〜す (土田よしこ/週マ)
○やさしい死神 (山田ミネコ/別マ)
○ぼくのとうちゃん (あすなひろし/週ジャン)
○潮騒がぼくの心に (有吉京子/週マ)
□タイガーマスク (辻なおき/週マガ)
□ロングヘアのビーナス (藤井由美子/週フレ)
□ブルーインパルス (ひだのぶこ/週コミ)
□なんたって18才! (牧野和子/週コミ)
□ビューティフル!亜子 (すずき真弓/週コミ)
□オーロラの見える日 (津雲むつみ/週セ)
□帰ってきたアイツ (弓月光/りぼん)
□きみどりみどろあおみどろ (土田よしこ/りぼん)
□あいつの夏 (一条ゆかり/りぼん)
□恋するお年頃 (一条ゆかり/りぼコミ)
□美しきチャレンジャー (小形啓子/週コミ)
□はだしのマドモアゼル (一条ゆかり/りぼん別付)
◆りぼんコミック休刊
◆COM休刊


  







 









 



 

  

 



 

 



 

 


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